真実を真実だと信じさせる
日本の刑事裁判の有罪率は99.9%に近いそうです。
→ 司法統計情報 | 裁判所 - Courts in Japan
もしあなたが次のような状況に立たされてしまったら、どうすればいいのでしょうか。
ちょっと考えてみてください。
背景
あなたには愛する人がいて、その人と結婚もして、二人で暮らしていました。
しかしこちらが相手を愛する気持ちは変わらないのに、相手は最近なんだか冷たい態度で接してくるようになりました。
あなたは残念だと思いながらも、そのような生活をしばらく続けていました。
そんなある日、突如悲劇が起こります。
あなたの愛する人は、何者かによって殺害されてしまいました。
あなたは悲しみのどん底に突き落とされます。
しかし捜査の中で新たな事実が判明しました。
あなたのパートナーは浮気をしていたというのです。
あなたはその事実を全く知りませんでした。
浮気されたというのも悲しかったし、自分が相手を満足させることができなかったということにも悔しさを感じていました。
しかしそんな中にあっても、あなたは配偶者を殺害した容疑者として裁判に呼び出されてしまいました。
浮気を知っていて、その憎しみから愛する人を殺害したのではないか、と。
裁判にて
被害者を殺害したのはあなたではありません。
あなたは当然無実を主張します。
しかし、その証拠が十分であるとは言えないようです。
殺害が発生したとされる時間帯は、20時から21時の間です。
被害者は20時に友人との電話を終え、21時に浮気相手の自宅で死体が発見されました。
その時間帯、あなたは仕事が終わってから2人の同僚とレストランで食事をしていました。
その2人の同僚もその事実を認めています。
20時30分に同僚たちと別れた後、すぐに帰宅しましたが、被害者は自宅にいませんでした。
その後はずっと自宅にいましたが、21時過ぎにあなたは配偶者が殺害されたという連絡を受けました。
あなたは被害者が浮気をしていたことを知らなかったので、当然被害者の浮気相手の住所も知りませんでした。
あなたは真っ白な真実を丁寧に述べますが、不幸なことに、
20時30分から21時の間に被害者を殺害したのではないかと疑いにかけられます。
あなたは裁判官たちが公正な裁きを下すことを申し入れ、自分が話していることが全て真実であることを誓います。
それにも関わらず、あなたの疑いはなかなか晴れません。
一体どうすればいいのでしょうか。
客観的に考えると
被告人の証言を信じるなら、考えられるシナリオは次のようになります。
被告人ではない何者かが、20時から21時の間に、被害者を殺害し、被害者の浮気相手の自宅に死体を運んだ。
または被害者の浮気相手の自宅で被害者を殺害した。
ここで注意しなければならないのは、被告人の証言を信じるなら、という部分です。
被告人は自分の利益を守るために、真実とは異なることを述べている可能性も大いにあります。
被告人が嘘をついているとしたら、次のシナリオが加わります。
被告人が、20時30分から21時の間に、被害者を殺害し、被害者の浮気相手の自宅に死体を運んだ。
または被害者の浮気相手の自宅で被害者を殺害した。
では、20時から20時30分までの間に被告人が被害者を殺害したとは考えられないのでしょうか。
被告人と一緒に食事をしていたという2人の同僚は、もしかすると被告人を守るために嘘をついているのかもしれません。
なんなら共犯者だったのかもしれません。
被告人または被告人とその2人の同僚のうちの1人または2人が、20時から21時の間に、被害者を殺害し、被害者の浮気相手の自宅に死体を運んだ。
または被害者の浮気相手の自宅で被害者を殺害した。
もっと言えば、20時まで被害者と電話をしていた友人の証言を信じるなら、です。
その友人が20時までに殺害したのかもしれません。
被害者の携帯電話にはその時間に着信履歴が残っていましたが、友人による自作自演かもしれないのです。
事実が自分に有利かどうか
さきほどの推論の中では不自然な点があります。
同僚たちが本当に被告人を守りたいと思っていたのなら、死体が発見されたのが21時だということを聞いてから、
21時以降まで一緒にいたと証言するのが自然です。
同僚たちが嘘をついているとは考えにくいでしょう。
これは、その情報が事実として受け入れられることによって、自分たちが利益を得たり損失を回避したりすることができるかどうかを考えてみるとよいでしょう。
答えが NO なら、嘘をついているとは考えにくいのです。
この場合、同僚たちは「被告人と20時30分までレストランにいた」と証言しています。
この事実は、前半の30分のアリバイができるだけであり、残りの時間に有効なアリバイがないので、
同僚たちや被告人の大きな利益の達成や大きな損失の回避につながることはありません。
損失は何?
それでは、あなたの場合はどうでしょうか。
まず、あなたが本当に加害者であったときを考えてみましょう。
罪に問われ罰を与えられるというのは大きな損失ですが、
あなたが被害者を殺害していないと主張し、それが受け入れられたとすれば、その損失を回避することができます。
あなたにとっての損失はそれだけですし、その損失を回避する唯一の方法が「被害者を殺害していない」という主張を通すことなのです。
逆に、あなたが無罪であり、別に真犯人がいるときを考えてみましょう。
冤罪に問われ罰を与えられるというのは確かに大きな損失ですが、本当に無罪なら、あなたの本当の損失は別のところにあるはずです。
あなたは裁判所に立っている今もなお、先日から激しく渦巻く感情の中から決して抜け出すことができないでいます。
愛する人を失った悲しさと、愛する人を殺した真犯人に対する怒りです。
あなたは、被害者を誰よりも愛していたこと、死を知らされたときの凍りついたような心、
浮気をしていたと知ったときの悔しさや罪悪感、憎き犯人が野放しにされている狂うような怒り、
これらのすべてを伝えなければなりません。
あなたが本当に望むのは自分に無罪の判決が下されることではなく、
真犯人が正当に裁きを下されることです。
無罪が認められただけでは、あなたの心は晴れません。
このことを伝える必要があります。
このような事実を裁判官たちに認めさせたところで、直接的にはあなたに利益はありませんし、回避できる損失もありませんから、信じてもらえる可能性が高くなるかもしれません。
もっとも、疑いがかけられているので自分の無実は簡単に信じてもらえるわけではありません。
一番大切なのは、自白を強要されたとしても決して屈することなく無実を主張続けることです。
しかし、無実だと一点張りをするのではなく、自分が本当に望んでいることもあわせて伝えることも大切だと思います。
読んでくれてありがとうございました。
では